爵位や勲章はカネで買えるか ー 国際名誉勲章委員会??

2013年10月8日火曜日

勲章 爵位 都市伝説


『国際名誉勲章委員会』

インターネット草創期から根強く存在するネット都市伝説に、「米国にある『国際名誉勲章委員会』なる組織に申請書と33ドルを送ると、リヒテンシュタイン公国の爵位が買える」というものがあります。・・・・・

どう見ても胡散臭い話で、ツッコミどころが満載なのですが、それでも真に受ける人がいるようで、質問サイトなどに「『国際名誉勲章委員会』のサイトを教えてください」などという投稿があったりします。

まずはっきり言いますが、リヒテンシュタイン公国の爵位を33ドルで購入することはできませんし、『国際名誉勲章委員会』などという組織も存在しません。だいたい、なんで、リヒテンシュタイン公国の爵位の授与を、米国にある妙な団体が決定するのか意味不明です。リヒテンシュタインは確かに小さな国(国土面積:160平方キロメートル、人口:約35000人)で、おそらく、このデマを考えた人間は「小さい国ならカネを払えば爵位ぐらいくれるとしてもおかしくはないだろう」とでも考えたのでしょう。しかし、小さい国だからといって、貧しいわけではありません。リヒテンシュタインの1人あたりGDPは約12万ドル(日本は約4万ドル)、国家元首であるハンス・アダム2世は欧州の君主の中で最大といわれる、50億ドルもの資産を保有しています。爵位を授与するのは君主であるこのハンス・アダム2世です。50億ドルの資産を持つ人が、33ドルのカネが欲しくて爵位を売るでしょうか。まったく馬鹿げた話です。

『Lord』の地位が買える?

さいわい、というべきか、国際名誉勲章委員会のサイトというのは存在しないので、だまされて33ドル払う人もいないようです。しかし、国際名誉勲章委員会とは全く別に、爵位や貴族の称号を販売すると称する団体のサイトは実は無数に存在します。一番多いのは、英国の「Lord」の称号が購入できる、というものです。

これがまた曲者です。たしかに英国で男爵(Baron)に対して「Lord」という敬称を用います。しかしこれは敬称であって、爵位ではありませんし、当然のことながら、英国の男爵位をお金で買うことなどできません。では、この手のサイトは何を売っているのかというと、「Lord of the Manor」の地位を売っているのだそうです。

「Lord of the Manor」というのは「荘園領主」のことです。かつて貴族は広大な荘園を保有していましたから、公爵や侯爵、伯爵はみな「Lord of the Manor」でもありました。しかし、逆は真ならず、で、「Lord of the Manor」だからといって、それで貴族というわけではありません。両者は基本的に別物です。「Lord of the Manor」というのは単に土地の所有者としての地位しか意味していません。つまり、この手のサイトが実際に売っているのはただの土地です。「Lord of XXXX」(「XXXX」はたぶん荘園として有名な地名なんでしょうね)の地位を売りますよ、というのは「XXXX」に存在する土地を売りますよ、という、ただそれだけのことなのです。しかも、手ごろな値段で売られているところを見ると、その売っている土地というのも、ほんのわずかな土地なのでしょう。遠く離れた英国の、行ったこともない地域の、ほんのわずかな面積の土地を買って、一体、なんの意味があるのでしょうか。

英国政府も、この手の妙なビジネスに対して、警告は発しています。駐米英国大使館のサイトには以下のような注意喚起が掲載されていました。
"A manorial lordship is not an aristocratic title, but a semi-extinct form of landed property. Lordship in this sense is a synonym for ownership. It cannot be stated on a passport, and does not entitle the owner to a coat of arms."
(荘園領主というのは、貴族の称号などではなく、半ば消滅している土地所有の形態です。この意味でのLordshipというのは、所有者というのと同義です。この地位はパスポートに記載することはできませんし、紋章の所有権が与えられるわけでもありません。)
荘園領主というのは貴族の称号などではない、とはっきり言及しています。要するに、「Lord」という単語の持つ多義性を巧みに利用して、単なる土地所有者としての意味しかない「Lord of the Manor」があたかも貴族の称号であるかのように誤解させるところが、この詐欺まがいビジネスのミソなのです。駐米大使館のサイトでこのような注意喚起が行われていたということは、米国でもこの手のサイトにだまされる人が結構いたと見えます。この辺の「Lord」がらみの事情というのは、英語のわからない日本人はもちろん、英語のわかる米国人でもよく理解していないということなのでしょう。

実は日本で・・・

結局、カネで爵位や貴族の称号を買う方法はないのか、と落胆した方、あきらめるのは、まだ早い。

実は、世界には、カネで買える爵位や勲章、栄典は結構あります。ただし、金額は決して手ごろではありません。以下、いくつかの例をあげます。

スコットランドの男爵:上で、英国の男爵をカネで買うことなど出来ない、と書きましたが、実は、英国の中でも、スコットランドの男爵称号は売買が可能です。価格は100万ポンド(約1億5千万円)以上だそうです。もちろん、カネがあるからと言って誰にでも売ってくれるわけではないでしょう。また、売買可能であるゆえに、スコットランドの男爵は貴族とはみなされないそうです。

カンボジアの勛爵:カンボジアでは国家に対する功労者に対して与える爵位として「勛爵」というものがあり、その最低条件は10万米ドル(約1千万円)以上の寄付だそうです。逆にいえばこれ以上の寄付をすれば勛爵をもらえる可能性があるわけです。スコットランド男爵に比べればハードルは低いのではないでしょうか。

日本の紺綬褒章:褒章は勲章と同じく栄典の一種ですが、勲章のような勲位を伴いません。勲章のように長年の功績を対象とするのではなく、一過性であっても顕著な功績であれば対象となります。紅・緑・黄・紫・藍・紺の6種類に分けられ、それぞれ対象となる功績が異なります。そのうち、紺綬褒章は「公益ノ為私財ヲ寄附シ功績顕著ナル者」が対象になります。具体的には、公的機関や公益法人などへの500万円以上の寄付をした個人、1000万円以上の寄付をした団体が主な対象です。なんと、カンボジアの勛爵よりもハードルが低いのです。

いろいろ見てきた結果、結局のところ、日本の紺綬褒章が一番、現実的だといえます。よその国の爵位を欲しがって詐欺まがいのサイトにカネをだまし取られるくらいなら、ぜひ、祖国日本のために寄付をして褒章をもらっていただきたいと思います。

Originally published at www.hankeidou.net on October 8, 2013.