書名

『絶滅危惧の地味な虫たち ―失われる自然を求めて』(電子書籍版)

著者

小松貴

刊行

株式会社筑摩書房 2018年3月発行

メモ

タイトルのとおり、「絶滅危惧」つまり環境省のレッドリストに掲載歴のあるムシ(昆虫、クモ類、多足類、甲殻類など陸上節足動物)の中から、地味であまり人気のない生物を採り上げて紹介しています。著者自身の言葉を借りれば、「より小さく、より目立たなく、より知られていないものを前面に」が本書の理念です。「絶滅危惧」「地味な」という言葉に惹かれてこの本を購入してしまったのは、僕自身が、漢詩を作るという「絶滅危惧種」であり、何より「地味」な人間だからかもしれません。それだけにこの本で取り上げられているムシたちには共感を禁じえませんし、彼らを見つけ出し紹介するためにあらゆる努力を惜しまない著者に対しては、絶滅危惧仲間のムシたちに成り代わり、感謝の言葉を捧げたい思いです。

本書では、取り上げられているムシの実物画像が漏れなく掲載されています。それらの画像は、環境省のレッドデータブックはもちろん、世界中のあらゆるデータが存在していると思われているネット上でも決して見つけることができないものであり、著者自身が日本全国北から南まで直接足を運んで撮影したものです。絶滅危惧の希少なムシを見つけ出すため、著者は自らの知識と経験、勘、さらに他の専門家からの情報、アドバイスを総動員して自然に向き合います。ときには真夏の灼熱の太陽の下、ときにはライトがなければ何も見えない真夜中の闇の中で、米粒ほどのムシを愚直に追い求めるさまは、もはや修行僧のようですらあります。そして、毎回、障害と困難を乗り越えて最終的には目的のムシを見つけ出してしまう経緯を読んでいると、これを原作にして連続ドラマ化できるのではないか、という俗な発想も浮かんできます。もしそうなったら、冒頭で紹介されている「メクラチビゴミムシ」については、「不適切な表現が含まれますが、命名者の意図を尊重し、そのままとしました」というテロップが必要になるでしょう。

この手の本では、声高に環境保護を叫ぶ内容になりがちですが、本書の著者はもっと冷静で、思索的で、現実に根差しています。実際、本書で取り上げられているムシの中には、ある程度、人の手が加わった環境でなければ生きていけない種もいくつかあり、単純に、あるがままの自然が善で人工が悪とは言えないのです。一方で、本書でも何度か触れられていますが、「環境にやさしい」というスローガンのもとで自然を破壊し、ムシたちのすみかを奪うメガソーラーなどは、まさに現実から遊離した環境主義の落とし子でしょう。取り上げられているムシたちと同様、本書も「地味」かもしれませんが、自然を守るとはどういうことか、現実と向き合って考えるためには、こういう地味な本こそ、広く読まれるべきだと思います。