汎兮堂箚記 #3 『キーワードで読む「三国志」』(井波律子)

2020年5月2日土曜日

汎兮堂箚記 歴史


書名

『キーワードで読む「三国志」』(電子書籍版)

著者

井波律子

刊行

株式会社潮出版社 2019年7月発行(電子版)(紙書籍単行本は2011年2月発行、文庫本は2019年7月発行)

メモ

2020年は曹操没後1800年にあたるということもあって、「三国志づいた」勢いで購入した本です。

タイトルの通り、「美女」「猛将」「兄弟」「火攻め」「地図」「武器」「怪異現象」「結婚」などのキーワードに沿って、三国志の登場人物やエピソードを語っていくという内容です。基本的には『三国志演義』を題材としていますが、必要に応じて正史の『三国志』の内容も取り上げながら話が進められます。

三国志ファンであれば、本文に取り上げられているエピソードの大半は既知のものと思われますが、特定のキーワードのもとにそれらがつなぎ合わされたり、比較分析されたりすることで、新たな見方につながるというのが、この本のコンセプトです。

たとえば、「老将」の項目では、
蜀にも呉にもこうして特記すべき老将が厳然と存在するけれども、超大国魏にはどうも輝かしい老将が見当たらない。
という視点が示され、言われてみればその通りだな、と気づかされます。僕なりにその原因を考えてみると、やはり蜀や呉は人材が不足しているため、老将にも頑張ってもらわざるを得ないという苦しい事情の裏返しなのだと思います。魏のように人材がそろっていれば、年を取ったら引退して若い者に道を譲ってもらえばいいわけですが、道を譲るべき人材が不足している場合は引退してもらっては困るわけです。今の日本が「定年延長」「生涯現役」というのも、まさに蜀や呉と同じで、労働人口が足りないので「老将」に活躍してもらうしかないということです。

本文中、挿絵が多数出てきますが、『新全相三国志平話』や『三国志演義全図』『絵本通俗三国志』などに混じって、横山光輝『三国志』も登場します。これは、この本がもともと、愛蔵版横山光輝『三国志』全30巻の巻末に連載した「三国志通講座」を中心にまとめられたものだからですが、結果的に、このことがこの本を現代日本人にとっての三国志像に寄り添ったものにしていると言えます。なにしろ、江戸時代の日本人が『通俗三国志』によって三国志に接したように、現代日本人の三国志ファンのかなりの割合が、横山三国志によって三国志の世界に導かれたはずだからです。

三国志初心者の入門としても、ベテラン三国志ファンのおさらいとしても、面白く読める本だと思います。

追記

本書の著者、井波律子先生は、去る2020年5月13日、逝去されました。つつしんでご冥福をお祈りいたします。