書名

『非線形科学 同期する世界』(電子書籍版)

著者

蔵本由紀

刊行

株式会社集英社 2014年9月発行(電子版)(紙書籍単行本は2014年5月発行)

メモ

本書で取り上げられているのは、一定のリズムを刻む「振動子」同士の同期(シンクロ)現象です。まず、少数の振動子同士の同期現象として、振り子時計、パイプオルガンの音、ロウソクの炎、コオロギ・カエルの鳴き声などを取り上げながら同期現象の基礎を解説し、続いて、振動子集団の同期現象として、ロンドンのミレニアムブリッジの横揺れ事件、拍手、アジアボタルの集団発光、電力供給網、心拍、体内時計をつかさどる時計細胞の集団、電気魚同士の混信回避、解糖系における中間生成物量の振動、インスリンを分泌する膵ベータ細胞の集団同期、ヤツメウナギの遊泳運動、ミミズの蠕動運動、真正粘菌のアメーバ運動メカニズムなど、この世のありとあらゆる現象へと解説の手を広げていきます。

これらの振動子の実体は、それぞれに全く異なります。あるいは振り子という物体、あるいは音波、あるいは電波、あるいは細胞内化学物質の濃度、という具合にバラバラですが、「振動する」ということだけが共通しています。そして、それらを同期させている相互作用(結合力)の実体もそれぞれに異なっています。普通に見れば、これらの現象は無関係な現象の寄せ集めとしか思えませんが、それらの実体が何かということは置いておき、振動と同期のメカニズムのみに着目すれば、これらの雑多に見える現象を統一的に説明できる理論と数式モデルが導きだされます。

そして、この同期現象が自然界や生体内の自律分散制御を可能にしていることを踏まえれば、人工システムのより効率的な運用のために自律分散制御を応用する上で、同期現象の理論とモデルが大きな役割を果たします。本書の最後では、その一例として、交通信号機のネットワークを挙げています。現在は、各区域ごとに交通管制センターによる集中制御方式によって管理されている信号機ですが、これを信号機という振動子(青→黄→赤→青・・・と振動する)同士が交通流量という相互作用で結びついたネットワークと考え、信号機相互の同期によって自律分散制御が可能になれば、より効率的で、より安全、かつ回復力の強い交通システムが実現できるのではないかと考えられるのです。

本書のあとがきに述べられている通り、旧来の「分解し、総合する」という科学の手法では、本書で明らかにされる同期現象の構造にたどり着くことはできません。「複雑世界を複雑世界としてそのまま認めた上で、そこに潛む構造の数々を発見し、それらをていねいに調べていく」ことが必要になります。今世紀の科学のフロンティアがここに存在することは間違いないでしょう。

個人的にはBZ反応(ベローゾフ・ジャボチンスキー反応、本書では「ベルーゾフ」と表記)が出てきてテンションが上がりました。その筋では有名な古典的化学振動反応とはいえ、一般にはほとんど知られていないでしょうが、僕にとっては、かつてゼミ室で英語の解説書と格闘した頃を思い出させる懐かしい反応なのです。