私事ですが、昨年末に住宅ローンを繰上完済しました。住宅ローンを完済したら、その住宅に設定してある抵当権を抹消する登記をしなければいけません。一番楽なのは、住宅ローンを借りた銀行を通じて司法書士に依頼してすべて任せてしまう方法です。忙しい人にはお勧めですが、当然のことながら司法書士に支払うお金がかかります。


登記申請手続きを自分でおこなえば、かかるお金は最低限で済みます。せっかくローンも返し終わったところだし、お金は節約したい、という方は、こちらをお勧めします。とはいえ、ほとんどの人にとって初めて経験する手続きなので、不安な点も多いことでしょう。実際にやってみると、正直たいしたことではなかった、というのが個人的な感想ですが、他の人が同じように感じるかどうかはわかりません。この記事は、今回の僕の抵当権抹消登記の経験を実録としてご紹介することで、自力でやるか司法書士に委任するか迷っている方、あるいは、自力でやることにしたが不明な点がでてきて困っている方、などの参考にしていただくことを目的にしています。


銀行から書類を取り寄せる

抵当権抹消登記申請に必要な書類には

①銀行から提供される書類

②自分で作成する書類

があります。自力で登記申請することを決めたら、まず、銀行から必要書類を取り寄せなければいけません。


去年の年末に繰上完済した後、年が明けて1月になって、銀行から書類が郵送されてきました。内容は、ローン契約が終了した旨のお知らせと、抵当権抹消手続きについての案内です。



自分で手続きする場合は、「抹消登記必要書類返却依頼書」を記入して銀行へ提出します。



提出後、2週間ほどで、銀行から必要書類が送られてきます。必要書類とは以下の3つです。

  • 抵当権設定契約証書
  • 登記識別情報通知
  • 委任状(抹消登記用)

それぞれの書類の意味については、また後ほど触れます。なお、委任状の受任者の氏名部分が空白になっている場合は、そこに自分の氏名(住所は不要)を記入します。



住所変更登記が必要かどうか確認する

銀行からもらう書類はそろったので、次に、自分で作成する書類を用意していくのですが、その前に一つ確認しておくことがあります。


今回抵当権を抹消する物件(ほとんどの場合、今住んでいる自宅だと思います)の所有者(自分)の住所登記が現住所になっているかどうかを確認することです。もしなっていなければ、住所変更の登記申請も同時におこなわなければなりません。


現在の住居を購入し所有権移転の登記をした時点ではまだ以前の住居に住んでいたので、売買契約も登記も旧住所でおこなっているはずです。その後現在の住居に引っ越したのちに住所変更の登記をしていなければ、登記上は旧住所のままになっているでしょう。一方、今回の登記申請の際に記入する住所は当然現住所ですから、登記簿の記載と齟齬が生じることになります。そのため、登記簿の住所を現住所に変更する必要があるのです。


登記簿の内容を確認するのに法務局へ行く必要はありません。ネットでおこなうことができます。


「登記情報提供サービス」というシステムがあり、登記情報をインターネットを使用してパソコンの画面上で確認し、その内容をPDFで保存することもできます。手数料がかかりますが手頃な金額なので利用しない手はありません。利用は平日に限られますが、朝の8時半から夜の9時まで利用可能なので、夕方5時過ぎに閉まってしまう法務局へ行けない人間にはありがたいシステムです。



利用者登録が必要な「登録利用」の場合は、申し込みから利用可能になるまで審査で1週間ほど時間がかかりますが、クレジットカードの即時決済による「一時利用」であればすぐに利用が可能です。今回はまさに一度きりの利用なので、この「一時利用」でかまいません。利用法の詳細はリンク先をご覧ください。手数料は全部事項で332円です。所有者住所の確認だけなら所有者事項のみの142円でもいいのですが、この際、最新の登記情報全体を確認しておいたほうがよいので、全部事項にします。


目的の登記情報を閲覧できたら、そのままPDFファイルをダウンロードして保存しておきましょう。これでいつでも内容を確認できます。


ダウンロードしたPDFを開いて、「権利部(甲区)(所有権に関する事項)」の一番下に自分が住居を購入した時の所有権移転が記載されているはずですので、その所有者住所がどうなっているか、住所変更登記がすでになされているかどうか、を確認します。僕の場合、案の定、旧住所のままでしたので、住所変更登記申請が必要とわかりました。なお、この欄の順位番号が、次章で住所変更登記申請書の「登記の目的」に記載する「〇番」に該当します。



住所変更登記申請書の作成

ではいよいよ書類の作成にかかります。まずは住所変更のほうを片付けるのですが、その前に住民票(正確には「住民票の写し」)を取得しておきましょう。住所変更登記申請の添付書類として必要ですし、申請書作成時にも参照しなければいけません。マイナンバーカードがあれば、コンビニで取得できます。手順はこちらの「コンビニ交付」を参照してください。なお、不動産登記ではマイナンバーは利用できないので、住民票もマイナンバーの記載のないものを取得します。


住民票が用意できたら、申請書の記載に取り掛かりましょう。登記申請書の様式テンプレートは法務局サイトの「不動産登記の申請書様式について」に一覧がありますので、その中の「10)登記名義人住所・氏名変更登記申請書(住所移転の場合)」のファイルをダウンロードして使用します。なお、マンションの場合は、下側の「住所の変更(敷地権付き区分建物)の場合」になるので注意しましょう。様式テンプレートとともに記載例もあるので、これもダウンロードしておきます。それを参照しながら記載していけばそれほど難しくはありませんが、ざっと説明しておきます。



登記の目的

「〇番所有権登記名義人住所変更」と記載します。「〇番」は前章最後で述べたとおりですので、登記情報提供サービスからダウンロードした登記情報のPDFを確認してください。


原因

「平成(令和)〇年〇月〇日住所移転」と記載します。日付は住民票に記載されている現住所への転入年月日です。



変更後の事項

現在の住所を記載します。住民票に記載されている通りに記載し、省略などはしないこと。


申請人

自分の住所・氏名と連絡先の電話番号を記載し、氏名の横に押印します。印鑑は認印でかまいません(今後、脱ハンコの流れで押印不要になるかもしれません)。申請書に不備があった場合、ここに書いた電話番号に連絡があるので、連絡のつきやすい携帯電話の番号がよいでしょう。


申請日と宛先

「令和〇年〇月〇日申請 〇〇法務局(又は地方法務局)〇〇支局(又は出張所)」のように記載します。提出先の法務局は、物件の所在地を管轄する法務局です。不明の場合は法務局のホームページで調べましょう。不動産登記と商業登記で管轄区域は異なるので間違えないように注意してください。


登録免許税

今回の申請で支払う登録免許税の金額を記載します。金額は土地または建物1個につき1000円なので、通常、土地で1000円、建物で1000円、合わせて2000円になります。しかし、土地が2筆以上にまたがる場合は1筆ごとに1000円となるため、3000円以上になってしまいます。僕の場合もマンションが2筆にまたがって建っているため、土地が2000円、建物が1000円の合わせて3000円でした。


なお、登録免許税は現金か収入印紙で支払うのですが、現金支払いの領収書または収入印紙を別紙に貼り付けて申請書と一緒に提出します。ただし申請書の末尾に余白が十分あれば、そこに貼り付けてもかまいません。


不動産の表示

登記情報提供サービスからダウンロードした登記情報のとおりに以下の各項目を記載します。

不動産番号

登記情報の「表題部(専有部分の建物の表示)」の部分に記載されています。

一棟の建物の表示

登記情報の「表題部(一棟の建物の表示)」の部分にある「所在」「建物の名前」の記載をそのまま書き写します。

専有部分の建物の表示

これも同じく、登記情報の「表題部(専有部分の建物の表示)」部分の「家屋番号」「建物の名称」「種類」「構造」「床面積」を書き写します。

敷地権の表示

同じく、登記情報の「表題部(敷地権の目的である土地の表示)」部分の「土地の符合」「所在及び地番」「地目」「地積」と、「表題部(敷地権の表示)」部分の「敷地権の種類」「敷地権の割合」を書き写します。敷地が1筆の場合は「符合1」だけになりますが、僕のように敷地が2筆にまたがる場合は「符合1」「符合2」のそれぞれについて上記の全項目を記載することになります。


以上で、住所変更登記申請書の作成は完了です。



申請書が完成したら、

  • 申請書
  • 登録免許税領収書(または収入印紙)を貼付した紙:申請書の末尾の余白に貼付する場合は不要
  • 住民票

を重ねて左端をホッチキスで綴じます。申請書が2枚以上になる場合は、綴り目に割り印をしなければいけません。申請書と添付書類もしくは添付書類同士の綴り目には割り印不要です。



抵当権抹消登記申請書の作成

次はいよいよ本丸の抵当権抹消登記申請書ですが、ほとんど前章の住所変更登記申請書と同じなので、異なる部分を中心に説明します。


登記の目的

テンプレートにあらかじめ記載されいているとおりで、いじる必要はありません。


原因

「令和〇年〇月〇日解除」と記載します。日付はローンを完済した日です。


権利者

自分の住所と氏名を記載します。住所変更登記申請書のときと同様に、住所は住民票のとおりに記載してください。


義務者

銀行(またはローン会社)の住所・会社名・会社法人番号・代表者氏名を記載します。銀行から送られてきた「委任状」に記載されているとおりに書き写してください。


添付情報

テンプレートにあらかじめ記載されていますので、通常いじる必要はありませんが、ここで添付情報の内容を確認しておきましょう。

登記識別情報(又は登記済証)

俗にいう「権利証」にあたるもので、保有する権利が登記というお墨付きを得ていることを証明するものです。ここでは、銀行が抵当権を設定した際に抵当権者である銀行に交付された登記識別情報のことです。銀行が抵当権を有していることの証明ですから、抵当権を抹消する際には回収しなければいけないわけです。銀行から送られてくる3つの書類のひとつです。

登記原因証明情報

登記の原因、つまり、抵当権が消滅したことを証明する情報を記した書類です。これに相当する書類として何を用いるかは、銀行やローン会社によって異なるようですが、僕の場合は「抵当権設定契約証書」が送られてきました。これ自体は抵当権を設定したことの証明にしかなりませんが、その末尾に「本契約は解除いたしました」という記載と抵当権者の記名・押印を追加することで、抵当権が解除されたことの証明書になっています。


会社法人等番号

抵当権者である法人(銀行やローン会社)を識別するための番号です。「義務者」の項目で記載してあればよく、添付書類のようなものは不要です。なお、この番号を記載できない場合は、抵当権者である法人の登記事項証明書(発効後3ヶ月以内のもの)を添付しなければいけません。逆に言えば、会社法人等番号を記載する場合は、法人の登記事項証明書は不要です。

代理権限証明情報

委任状のことです。銀行から送られてきます。抵当権の抹消登記というのは本来、抵当権を設定した側(銀行など)と設定された側(ローンを借りた我々)がそろっておこなうものです(そうでないと、ローンを借りた側が完済してないのに勝手に抵当権抹消の登記をできてしまうことになります)。しかし、抵当権者である銀行などとしては、ローン完済のたびにいちいち登記申請手続きに付き合うわけにもいかないので、委任状を発行して「手続きはすべて任せます」という意思を表示するわけです。


申請日と宛先

住所変更登記申請書と同じです。


申請人兼義務者代理人

住所変更登記申請書の「申請人」の項目と同じです。


登録免許税

住所変更登記申請書と同じです。


不動産の表示

住所変更登記申請書と同じですが、末尾に「順位番号」を記載する点が異なります。順位番号というのは、登記簿の「権利部(乙区)」に表示されている「順位番号」のことで、何番の抵当権が今回の対象なのかを特定するためのものです。登記情報の権利部(乙区)の内容を確認すれば、何番かはわかると思います。たいていは一番最後の番号であるはずです。



以上で申請書の作成は完了。



あとは、住所変更登記申請書と同様に、

  • 申請書
  • 登録免許税領収書(または収入印紙)を貼付した紙:申請書の末尾の余白に貼付できる場合は不要
  • 登記識別情報
  • 登記原因証明情報
  • 委任状

を重ねて左端をホッチキスで綴じます。申請書が2枚以上になる場合は、綴り目に割り印をすること、申請書と添付書類、添付書類同士の綴り目には割り印不要であること、ともに、住所変更登記申請書と同じです。


これで書類がすべて用意できたので、あとは法務局への提出です。


法務局へ提出

収入印紙をまだ購入していない場合は、法務局で購入し、申請書の余白(または別紙)に貼付します。今回は住所変更登記申請書に3000円分、抵当権抹消登記申請書に3000円分を貼付しました。


そのあと、住所変更登記申請書と抵当権抹消登記申請書を一緒に窓口へ提出。提出の際に押印が必要なので、印鑑(認印)を忘れず持参しましょう。


登記完了証の受け取り

申請書提出の際、「通常、登記完了まで1週間が目安だが、新型コロナの影響で1週間では完了しない可能性があるので少し長くかかるかもしれない」と説明されたので、余裕をもって2週間後に法務局を再訪し、登記完了証を受領しました。




抵当権抹消登記のほうは、完了証を2枚交付されました。1枚は抵当権者(銀行やローン会社)に渡すためのものです。今回、僕の場合は、銀行から「登記完了証を当行へお送りいただく必要はございません」と連絡を得ていたので、転送の必要はなく、これですべての手続きが完了となりました。もし銀行から登記完了証を送るように指示されている場合は、それを送って完了となります。


以上、僕自身の体験をもとに、抵当権抹消登記申請の流れを概説しました。情報をお求めの方の参考になれば幸いです。なお、現在ではマイナンバーカードを使ったオンライン申請も可能で、今後はこちらの方法が主流になっていくのかもしれません。