2021年版世界長者番付
今年もForbes誌が世界長者番付(10億ドル以上の純資産を持つ資産家=Billionaireビリオネアのリスト)を発表しました(https://www.forbes.com/billionaires/)。昨年、番付をネタに記事を書きましたが(『2020年版世界長者番付と人類史上最大の富豪』)、あれからもう一年たったとは驚きです。
ビリオネアはコロナでも稼ぐ
この一年は言うまでもなく、世界全体が新型コロナとの闘いに明け暮れた一年でした。昨年の番付発表の時点ですでにコロナの影響があらわれていて、ビリオネアの人数も、ビリオネアの総資産も、一昨年と比較して減少していました。昨年の番付発表後も、新型コロナの感染拡大の勢いはとどまることはなく、各国で都市封鎖が実施され、経済活動は停滞を余儀なくされました。
そのことを考えれば、今年の番付も昨年同様に、いや昨年以上に、ビリオネアの人数・資産ともに減少しているのではないかと予想してしまいますが、実際はまったく逆でした。
今年のビリオネアの総数は2755人で、昨年より660人も増えたのです。彼らの86%が昨年よりも資産を増やしており、その結果、ビリオネアの合計資産額は13.1兆ドルと、昨年(8兆ドル)の1.6倍にまで増加しました。
これはコロナ禍で経済的な苦境に立たされている人々からすると信じられない結果かもしれません。しかし、コロナ不況への対策として各国が大規模な財政出動と金融緩和に踏み切った結果、労働市場の低迷を尻目に金融市場は急回復して株価は高騰していますし、投機的な動きも強まり、暗号資産(仮装通貨)の価格も上昇が続いています。これらの恩恵をより大きく受けることができるのは富裕層であることを考えれば、ビリオネアの資産増加は当然の結果といえます。
また新しい生活様式によって新たに創出された需要も、それに対応できる技術力を持つGAFAMなど巨大企業の利益を増大させていますから、それらの企業にかかわるビリオネアたちの資産も増えることはあっても減ることはないでしょう。結局のところ、ビリオネアたちにとってパンデミックは逆風というより、むしろ追い風なのかもしれません。
国別の人数では、米国が724人で今年も1位ですが、2位の中国(香港・マカオを含む)が698人と僅差で迫っています。この両国で全体(2755人)の51%を占めており、米中両国に世界の富が集まっていることがわかります。
今回、初めてビリオネアに名を連ねたのは493人ですが、そのうち210人(42.6%)は中国人(香港・マカオを含む)です。中国の勢いを見せつけられる数字ですが、今後、米国の対中強硬姿勢が具体化していった場合、この勢いがどう変化するのか不透明な面もあります。
日本人ビリオネアも昨年(26人)より22人増えて48人となりました。日本人トップはソフトバンクの孫正義氏で資産額は454億ドル(約4兆9500億円)で世界29位、昨年日本人トップだったファーストリテイリング創業者の柳井正氏は日本人2位で世界31位となっています。
今年も上位50人に絞って見てみる
昨年、上位50人に絞ってデータをまとめてみたので、今年も同じように上位50人のデータを観察してみます。
まずは上位50人のリストを見てみましょう。
そして、これも昨年同様に、トップ50に入ったビリオネアの国別人数を算出して、グラフにしてみました。
1. 米国 23人 (昨年24人)
2. 中国 12人 (昨年8人)
3. フランス 5人 (昨年5人)
4. インド 2人 (昨年1人)
4. 日本 2人 (昨年2人)
4. ドイツ 2人 (昨年2人)
7. スペイン 1人 (昨年1人)
7. メキシコ 1人 (昨年1人)
7. カナダ 1人 (昨年1人)
7. イタリア 1人 (昨年1人)
人数でも資産額でも、米・中・仏のトップ3は不動ですが、米国のシェアがじわり減り、中国のシェアがじわり増えています。フランスは今年も3位と健闘していますが、顔ぶれは固定されています。ルイヴィトンにロレアル、サンローラン、シャネルといずれもファッション・コスメ関連の世界的ブランドの関係者であり、いかにもフランスらしい顔ぶれです。
昨年、3人がトップ50にランクインしていたロシアですが、今年はトップ50から姿を消しました(ただし彼らは今年も100位以内にはとどまっています)。対照的に、インドはトップ50の総資産額に占めるシェアで2%から4.5%へと倍増し、日本やドイツをごぼう抜きして4位に躍り出ました。巷間言われているように、コロナ禍は時代の変化のスピードをはやめる結果をもたらしているのかもしれません。
気になるビリオネアたち
ここからはランクインしたビリオネアたちについて、野次馬的に見ていきましょう。
ロックフェラー超えも見えてきたベゾス氏
まずは、4年連続1位をキープしたジェフ・ベゾス氏です。昨年の記事で、「人類史上最大の富豪」ジョン・D・ロックフェラーの資産を現代に換算して3000億ドル余りと見積もり、ベゾス氏がこれを超える可能性について触れました。今年の番付でベゾス氏の資産は1770億ドル、さらにこの記事を書いている現在は1978億ドルまで増えています(2020年8月には一時2000億ドルを上回ったともされています)。いよいよロックフェラーの背中が見えてきたかもしれません。ベゾス氏は今年の第3クオーターでAmazonのCEOを退任することを表明していますが、「取締役会長としてAmazonに関わり続ける」とも述べており、今後もその資産増加の勢いが鈍ることはなさそうに思われます。
なお、一昨年にジェフ・ベゾス氏との離婚により財産分与としてAmazon株の4%を譲り受け、昨年の番付でいきなり22位(資産額360億ドル)にランクインした元妻のマッケンジー・スコットさんですが、今年も同じ順位をキープし、資産は530億ドルに増えています。
資産を急増させたビリオネアたち
今年はどのビリオネアも軒並み資産を増やしていますが、その中でもさらに突出して資産を急増させた人たちが何人かいます。昨年の31位から2位へ急上昇したイーロン・マスク氏もその一人です。資産額は昨年の246億ドルから1510億ドルへと6倍以上に増えています。
イーロン・マスク氏は宇宙開発企業スペースX社の創設者・CEO、電気自動車企業テスラ社の共同創設者・CEOです。マスク氏の今回の資産額急増の背景には、テスラ社の株価急騰があります。昨年1月と今年1月のテスラ社の株価を比較すると10倍近くにまで上昇しているのです。
この株価高騰を反映して、今年の1月7日にはマスク氏の資産額が1885億ドルを超え、一時的にベゾス氏を上回って世界一の大富豪となっています。その後、株価の上昇が一段落したこともあり、今回のランキング確定時点では2位に甘んじることとなりましたが、この記事を書いている時点でベゾス氏との差は縮まっており、再逆転もあり得るでしょう。将来的にガソリン自動車はほぼ電気自動車に置き換わることを考えれば、ベゾス氏より先にマスク氏がロックフェラー超えをする可能性も否定できません。
さらにランキングを見ると、資産額の増加率ではマスク氏をはるかに凌ぐ人物が見つかります。13位の鍾睒睒氏(中国)です。昨年の資産額は20億ドルですが、今年は689億ドル、なんと35倍に増加しています。順位は昨年の1063位から13位へ「千人抜き」し、中国人トップとなりました。
この鍾睒睒氏は「農夫山泉」という飲料メーカーの創業者ですが、資産急増の理由はやはり株式です。昨年9月にこの農夫山泉社が香港で新規株式公開を果たし、創業者で大株主の鍾氏は1日で50億ドルを獲得したといいます。さらに鍾氏は「北京万泰生物薬業」社のオーナーでもあり、この会社も昨年4月に上海証券取引所に株式を上場しました。その後、株価は上昇を続け、今年2月には上場時の25倍までになっています。
実はこの会社、SARS-CoV2(新型コロナウイルス)を含む感染症の検査キットの製造をしている会社なのです。そりゃあ株価も爆騰するでしょうね。しかし、逆に言えば、新型コロナの収束が見えてくれば株価暴落という可能性もあります。鍾氏の来年のランキングがどうなるかはコロナ次第かもしれません。
36位のミリアム・アデルソン氏は昨年の順位なし(つまり非ビリオネア)からいきなりのトップ50入りですが、この方の場合は事情はいたって明解で、夫の死去にともなって巨額の遺産を相続したことによるものです。亡夫というのは、カジノ会社「ラスベガスサンズ」の会長・CEOだったシェルドン・アデルソン氏で、昨年の番付で28位にランクインしていました。つまり、「アデルソン夫妻」として考えれば、急上昇ではなく、28位から36位へランクダウンということになります。
ランナーなら注目のこの人
25位にはナイキの創業者、フィル・ナイト氏がランクインしています。順位は昨年と同じですが、資産は295億ドルから499億ドルへと大幅に増えています。やはりナイキ株の上昇によるものなのでしょう。日本でもナイキの厚底シューズを愛用しているランナーは多く、一時期はレースに出ると周りはナイキのシューズだらけという感じでしたから、資産増に貢献した方もたくさんいることでしょう。僕はミズノなので関係ないですけど。
中国勢の動向
国別の分析で見たように、中国勢はトップ50へのランクインが昨年より4人増えて12人となるなど今年も好調ですが、順位は大きく変動しており、明暗が分かれた形です。
新規株式公開による資産急増で中国人トップに躍り出た鍾睒睒氏に続く中国人2位となったのはTencent(騰訊)創業者のポニー・マー(馬化騰)氏で、昨年の20位から15位に順位を上げました。一方、もう一人のマー氏、Alibaba(阿里巴巴)創業者のジャック・マー(馬雲)氏は昨年の17位から26位へ順位を落とし、中国人での順位もトップから4位へ転落しています。昨年、2人のマー氏の資産はいずれも380億ドル台でしたが、今年は、658億ドルまで増加したポニー・マー氏に対し、ジャック・マー氏は484億ドルにとどまり、大きく水をあけられました。
ジャック・マー氏は2019年から2020年にかけてAlibabaの会長・CEO・取締役を退任したものの、依然として大株主ですが、そのAlibabaは独禁法違反で罰金を科されるなど中国当局から圧力を受けており、昨年11月に予定されていた関連会社の新規株式公開が直前になって延期されてしまいました。この株式公開が予定通り行われていれば、当然ジャック・マー氏の資産ももっと増えていたでしょう。中国当局のAlibabaへの締め付けのきっかけは、ジャック・マー氏による中国金融行政への批判だと見られており、中国の企業は当局の意向に反対したり批判したりすることは許されないのだということを世界に知らしめることとなりました。
2人のマー氏に続く起業家たちも台頭してきています。昨年の57位から21位(中国人3位)に上昇した「拼多多」(共同購入システムを持つECプラットフォーム運営)の黄峥氏(通称コリン・ホアン)や、昨年61位から39位(中国人7位)に上昇した「ByteDance」(TikTokの運営)の張一鳴氏です。TikTokに関しては、米国トランプ政権が安全保障上の懸念から米国での事業を禁止する方針を表明して波紋を呼びましたが、大きなダメージにはならなかったようです。実際、TwitterでもTikTokの動画を見かけない日はありません。しかし、LINEのデータが中国のサーバーに保管されていたことで大騒ぎになったというのに、中国共産党の価値観に基づく検閲疑惑のあるTikTokについては気にせず使っているというのは不思議な気がしますね。
来年のトップ10を予想してみる
最後にワーキングプアな僕が来年のトップ10を適当に予想してみようと思います。根拠は何もありません。ただの勘というか、気分です。
1. ジェフ・ベゾス
2. ベルナール・アルノー
3. イーロン・マスク
4. マーク・ザッカーバーグ
5. ビル・ゲイツ
6. ラリー・ペイジ
7. セルゲイ・ブリン
8. ラリー・エリソン
9. ウォーレン・バフェット
10. アマンシオ・オルテガ
もし当たったら誰か1億円ほど恵んでくれませんかね。
追記(2022.04.10)
2022年版ビリオネアリストが出たので、答え合わせをしました。
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